朝鮮王朝後期の葬喪礼教化史に関して、第一年度目は外縁研究として共時的には霊魂観について他国との比較を行い、通時的には現代朝鮮における思想教化との連関性を探求した。その成果の学術論文として、前者では「欧州に端を発する韜晦的人間観の系譜」(『筑波法政』第21号、1996年9月)を発表し、後者では徐大粛著『金日成と金正日-革命神話と主体思想-』(岩波書店、1996年9月)を翻訳し出版した。 学術発表は、「日韓共同研究フォーラム」で行った。当研究フォーラムは、前村山首相提言を受け、財団法人日韓文化交流基金が主催する、日本と韓国の学者700名による共同研究である。当国際研究学会の前近代史文科会が、1997年1月15日、品川プリンスホテル新館3階エメラルドの間において行われ、研究代表者古田博司は、「朝鮮後期喪礼教化における『強占』と『山訟』」と題して学術発表を行った。本発表は、朝鮮王朝後期葬喪礼教化史において、社会上層部による墓地のための土地の強制占拠がおこり、下層部からはこれに対抗する訴訟が頻繁に生じてくる、当時の葬礼に関する社会現象を取りあげたものである。研究の結果、その原因が朝鮮王朝の15世紀から始まる埋葬の教化にあることが分かった。王朝により埋葬が強制され、風水の良い地を求めて上層部の「強占」が起こり、他方庶民は上層部に土地を奪われて「山訟」という訴訟を起こしたことが史料により明確に裏付けられた。 全体的に本研究の第一年度目の成果は、比較等の外縁研究と社会現象面の史的分析として得られた。第二年度目は、研究を制度と法令面で深化させ、核心研究へと進み、その成果を学術論文に結実させていきたい。
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