本年度は、前年度に引き続き明代大蔵経(南蔵・嘉興蔵)慣例の史・資料の収集に努めた。とくに今年度は、明初における南蔵の成立過程解明に重点を置き、南蔵がいかにして成立したのか、とくにそこに入蔵されている仏典の書誌学的文献学的見地からの考察をおこなった。 まず、近年中国の北京から刊行された『中華大蔵経(漢文部分)』全106冊仲に影印収録された洪武南蔵・永楽南蔵のテキストをすべて調査し、その仏典を個々に分析し、その結果、従来ではまったくその内容が明らかにされていなかった仏典の収録が確認され、また洪武・永楽両南蔵の関係やその間の変遷過程をある程度解明することができた。またその過程で、『中華大蔵経(漢文部分)』の資料的価値も明らかとなった。 次に、南蔵編纂の重要なスタッフである定巌浄戒が、南蔵入蔵用に編纂したテキストの一部が、南蔵に続いて北京で編纂された北蔵では「除去」すなわち入蔵除外という厳しい処置を採られた背景を、同じ措置を受けた玄極居頂の著述とともに分析した。その結果、入蔵除外の対象となった浄戒・居頂のテキストは、建文帝の命を受けて建文年間に編纂されたことが、建文関係の一切を抹殺したい永楽帝およびその周辺者たちの忌避するところとなり、削除されたことが判明した。これは、南蔵成立史解明に大きな意味を持つものと考えられる。 このほか、前年度に引き続き、明末の嘉興蔵の刊記を収集し、現在ほぼ半数(約3500件)を収集した。今後さらに収集活動を継続し、そこから従来解明されていない嘉興蔵開板にかかわる書問題の歴史的解明をおこないたい。
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