本研究は、仏教経典の一大叢書である中国印刷大蔵経を歴史研究資料として位置づけ、そのなかに含まれる種々の情報や関連資料の蒐集・分析を通じて、これまで明らかにされなかった側面の問題提起および事実の解明をねらいとしたものである。 従来、中国印刷大蔵経史研究は、おもに宋版や元版、および高麗版などが中心であり、多くの調査・研究がおこなわれてきた。そのいっぽうで明代の大蔵経は、わが国に遺存するものが皆無に近いため、これまで調査・研究の対象外であった。しかしながら明代の各大蔵経のなかにもすぐれた情報が多く含まれており、その分析によって、これまでの明代史研究の及ばなかった分野の開拓が期待された。そこで、立正大学図書館および山口県快友寺所蔵の南蔵、駒沢大学図書館所蔵の嘉興蔵の明代大蔵経の基本調査と資料の蒐集をはじめ、中国地方志や個人文集、石刻史料などからの大蔵経関連史料の蒐集に努め、あわせて関連研究の文献目録の作成に着手した。 こうした作業の過程において、順次個別研究を進め、まず南蔵に関する総合的研究を計画し、その体系化をおこない、その成果として『明代大蔵経史の研究ー南蔵の歴史学的基礎研究ー』を上梓した。これと平行し、嘉興蔵の成立過程を解明するため、六〇〇〇件におよぶ刊記の蒐集作業をおこない、将来的には『明版嘉興蔵刊記集』として刊行すべく、データの入力・整理を継続している。 今次の明代大蔵経史研究の基礎作業において、いくつかの新発見を得、さらには当該期の研究に十分な威力を発揮することを確認できた。今後もこうした基礎研究の継続と史料の発掘に努力したい。
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