本年度は居延新簡のカード化を終えた。カード化の作業と平行して書式・筆跡に基づく文書作成・伝達・保管の検討、さらに記載内容から古代史上の諸問題の考察にも及ぶところがあった。そのうち筆跡の検討からは次のことが明らかとなった。 1、いわゆる候恩冊書の筆記者は三人で、この冊書は最初の爰書が候官でのコピー、第二回目の爰書がオリジナルで、それらを送り状とともに一つに綴じて付け札を付けて保管したものであったこと。 2、上級官庁から受け取った文書を下級官庁に送達する際は、上級官庁から来た文書のあとに下達する文書の控をつけて編綴し、保管したであろうこと。そしてこのやり方は冊書のみならず觚でも同様であったこと。 3、正式文書には両行(二行書きの簡)の簡、控文書には札(一行書きの簡)が用いられる傾向があった。つまり、従来いわれていたように、両行の簡は文字数を増やすためだけに用いられたのではない、従って、簡牘の形状はその目的や内容によって使い分けがなされていたであろうこと。 また、簡の裏面の検討からは次のことが明らかとなった。文書簡の裏に印文、簡の到着日及び送達人の名が書いてあるのは、その冊書そのものには検がなく、印を簡上に直接おしたと考えられること、さらに文書簡の裏がそのまま検となることもあったこと、である。また、簡牘資料を用いて法制史上の問題である贖刑について考察した。その結果、秦においてはいずれも法定刑であるが、換刑としての贖刑と、換刑でなく(正刑)しかも酌量という意味をもたない贖刑の二つがみられたが、漢以後では後者はみられなくなる、ことがわかった。 次年度もカード化を継続して行い、さらに書式、筆跡に関する検討を重ね、かつ古代史上の問題をも考察してゆきたい。
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