平成9年度に交付された科学研究費補助金(研究課題名「記念祷設定簿にもとづく中世パリ大学と学寮の社会史的研究」)は、継続交付二年目にあたる。 平成9年度は、中世パリ大学の最も重要な学寮であった「ソルボンヌ学寮」(College de la Sorbonne)以外の24学寮の「記念祷設定簿」(Obituaire)を対象として研究を行った。これら24学寮のうち、ディズ・ユイットなど3学寮は13世紀に、バイユ-、プレール、ランスなど19学寮は14世紀に、セ-、サント、バルブの2学寮が15世紀に設立された。 研究の対象とした「記念祷設定簿」は、これらの学寮が1763年にルイ・ル・グラン学寮に統合されたさいに作り上げた、それぞれの学寮に貢献した篤志家のリストである。リスト作成の事情から、厳密な意味で「記念祷設定簿」とは言い難いものも含まれており、記載の内容についても一定の限界があるが、そこに記載された人物情報の分析を通して、総括の中間的段階であるが、中世、とくにその末期の学寮と社会との関係を照射するいくつかの知見が得られた。 (1)学寮関係の篤志者のなかで、当然のことではあるが、創立者が必ず記念祷の対象となっている。さらに、記念祷の対象となる者は、学寮に「ブルサ」を設定した人物、学寮の役職者を対象とする記念祷が多く見られる。(2)記念祷の対象とされている人物のほとんどが聖職者であり、俗人はごく少ない。このことから理解されるように、学寮のもつ「教会的性格」が顕著である。(3)記念祷の対象となった者でmagisterの称号を持つ者、あるいは当該学寮の出身者は少ない。 これらの知見と、前年度に得られた知見とを総合し、学術論文の形で研究成果を公刊することにしたい。
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