本研究では、ヨーロッパ中世大学史研究の主要な課題の一つである大学と当該期の社会との関連を究明しようとする「社会史的大学研究」をプロソポグラフィーの手法を採り入れ行ったものである。そのさい、主要な史料として、従来のプロソポグラフィー研究では利用されていなかった中世パリ大学関連の学寮の(COLLEGE)の「記念祷設定簿」(OBITUARY)を利用し、研究にあたってはソルボンヌ学寮をはじめとする合計26学寮の「記念祷設定簿」に記載されている約650件の人物情報を析出した(ソルボンヌ学寮関連322件、他の学寮関連311件。ただし、ソネボンヌ学寮関連のうち、「記念祷設定簿」記載分は122件、残り200件はグロリユ-の研究による)。 研究成果を次のようにまとめることができる。ソルボンヌ学寮の「記念祷設定簿」に記載された人物は、学寮の創立期に書籍の寄付などを通して学寮を支援した人物(フランス王を含む)のグループが確認できる。また、「記念祷設定簿」からは、かつて寮生であつたsociusとそうでなかった者non-sociusに分けることができるが、寮であった者の社会的経歴については、教会関係者が大多数を占める。non-sociusについてもほぼ同様のことが言える。さらに、「記念祷設定簿」記載人物122人中87人がmagisterの称号を有し、学位取得者にはsociusが多い。考察対象の人物の出身地については、今日の北フランス、ベルギー出身者が優勢である。 ソルボンヌ学寮以外の学寮の「記念祷設定簿」からも、考察対象人物のほとんどが教会関係者で占められており、また、シヨレ学寮の例では、magisterの称号の所有者が高い割合を占める。社会史的に見た中世パリ大学の学寮は、教育の中心であると共に、教会人輩出養成の機関として機能したと言える。今後、「記念祷設定簿」に基づく、学寮の経済的基盤の研究が要請される。
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