本研究の目的は、(1)前4世紀における「公有地」の利用形態について考察し、公有地の賃貸借が国家の歳入源として重要な意味を持ったこと、また(2)公有地の私的蚕食がポリスの財政上の危機につながったことをアテナイを中心に究明する. 平成8年度は上記「研究目的」(1)のテーマを、前4世紀後半におけるアテナイ財政政策の一断面として考察し、以下の知見を得た. 1.公有地には(a)ポリス所有のものと(b)小共同体(地縁的、血縁的団体)の所有するものとが存する。 2.公有地の賃貸借は前5・4世紀前半にも確認されるが、碑文史料の残存状況よりみて、前4世紀後半に集中的に増大する.(a)のものについてはWalbankの聖財賃貸借に関する研究より、(b)のものについてはヘカトステ-碑文より実証される. 3.ヘカトステ-碑文にあらわれる小共同体の所有する土地の貸し出しは、国家の干渉のもとでおこなわれ(財政家リュクルゴスの政策の一貫として)、おそらくこの土地は以前には貸し出されていなかったものと推定される.貸し出しのきっかけをつくり出したものは、ヒエラ・オルガスに関する民会決議(前352/1年)だった.この決議以降、前4世紀後半における公有地賃貸借の傾向は促進された. 4.前4世紀後半における公有地賃貸借の規模は、従来考えられていたよりもかなり大規模なものだった.したがって、公有地賃貸借が前4世紀後半のアテナイの国家財政にとって、少なくとも歳入面で重要な役割を演じていたことは明らかである.
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