97年9月オックスフォードのベリオール・カレッジのオズィン・マレー教授に面談しレビュウ-を受け、シュムポシオン論に関する意見交換をした。そこで問題となった論点は、果たしてシュムポシオン概念で、ギリシアの歴史を通時的に説明できるかということであった。本研究の出発点はマレー教授の80年代の一連の研究に触発されたことにあったからである。教授はブリオとルセルによるフラトリアとゲノスの見直しを受けて、それに代わるアルカイック期の社会・政治の組織原理を平等を原則とした共食組織に求めた。面談では、しかし、教授はアルカイック期についてのシュムポシオン論の有効性について依然としてその立場は維持しているが、ギリシア史全体に対するシュムポシオン論の有効性については見通しを誤っていてたとした。そしてむしろシュムポシオン論は文化史的アプローチに有効だとして軌道を修正した。 国内では伊藤貞夫「古代ギリシアの氏族について-新説への疑問-」『史学雑誌』第106編第11号、1997のようにブリオとルセルへの本格的批判も現れたが、ポリス形成期からアルカイック期の社会・政治の組織原理については、シュムポシオン論は有効である。さらにまた、マレー教授が示唆するにとどまっている多くの論点を実証的に検証していくことも有望であり、スパルタのシュッシティアとアゴ-ゲ-について筆者は4月に法制史学会で報告を予定している。 図像的研究については、研究書掲載の写真・図版を利用してコンピュータにデジタル画像として保存しているが、筆者のソフト利用の習熟度の低さゆえに十分な成果を上げるにいたっていない。今後の課題である。
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