研究代表者(三宅)は、この研究の成果を、アメリカ歴史学会第百十一回年次大会(American Historical Association's One-Hundred Eleventh Annual Meeting)(ニューヨーク)の第124部会「西欧と非西欧の諸文明における進歩の理念:比較論的考察」(The Idea of Progress In Western and Non-Westen Civilizations:A Comparative Approach)で発表する機会を与えられた。三宅の研究報告「西欧と非西欧世界における進歩の理念についての一般的考察」(General Comments on the Idea of Progress in the West and the Non-Western World)(平成9年1月5日)は、この部会の基調報告の性格をもつものであった。この報告のなかで三宅は、進歩の理念が当時の西欧文明の中心に位置した十七世紀フランスにおいて、「古代・近代論争」を契機として確立されたものであることを明らかにした。それ以前にイタリアに開花したルネッサンスのなかでは、古典古代が越えがたい規範と考えられ、イタリア・ルネッサンスの文化は、文明史家トインビ-も述べたように、古典古代の呪縛から自由ではなかった。この論争は、アメリカの社会学者ニスベットが『進歩の理念の歴史』で述べたように、後世の目から見れば滑稽にも映ずるが、真剣に為された。それは、西欧文明を古典古代の呪縛から解放するためには、不可避、不可欠の論争であった。西欧においては、十九世紀半ばに至って、ダ-ウィンに源を発する進化論が進歩への確信を一層固めたが、非西欧世界のうちの中国においても、十九世紀末から二十世紀初頭に、康有為(1858-1927)によって、儒教の再解釈による進歩の理念の確立が、進化論からも影響を受けながら遂行された。本報告は十九世紀ロシア、、十九世紀末から二十世紀初頭にかけての日本についても、チャアダ-エフ他を対象に思想史的概観を試みた。以上が三宅の報告の要旨であり、本研究の実績の内容をなすものせある。
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