平成8、9年度と2年間にわたる本研究の目的は、第一次世界大戦前を念頭に置きながら戦後におけるイギリスの帝国体制の動揺・解体においてインド鉄道投資がいかなる役割を果たし、いかなる位置を占めたのかを究明するために、鉄道建設・経営の実体を踏まえながら英印両国の産業・金融利害を含めた両政府の現状認識と政策志向の類型的・段階的特質に明らかにすることにあった。 平成8年度において、文献収集に当たるともに第一次世界大戦のインド鉄道に関する研究史を整理した結果、日本においては研究史が皆無に等しいこと、海外においては、鉄道固有の問題として鉄道研究が行われきており、イギリス帝国の再編との関わりがほとんど言及されていないことを明らかにできた。 平成9年度において、購入した史料をもとに、第一にイギリス投資家の動向を探るために、大戦中から大戦後のロンドン金融市場におけるインド鉄道証券の動向を分析した。第二にインド鉄道調査特別委員会(通称アクワ-ス委員会)の報告並びに議事録を分析し、英印両政府、鉄道会社、英印両国の各産業利害の動向を明らかにした。第三にアクワ-ス委員会後の動向を鉄道財政委員会、インド財政経費削減委員会の報告書をもとに検討し、さらにインド議会におけるインド・ナショナリストの主張を分析して、対立した鉄道経営主体問題と鉄道財政問題がどのようにして決着がはかられたのかを検討した。 以上の検討結果、(1)長年イギリスの対インド鉄道投資の要となってきたイギリス系鉄道会杜の役割が終えたこと、(2)イギリス本国政府=インド政庁は、鉄道収益から拠出金を課すことによってインド財政の均衡という統治体制の維持を図ったこと、(3)鉄道の国有・国営化は、インド・ナショナリズムのシンボルとなったことが明らかになった。
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