研究概要 |
本研究を構成する3つの柱は、(1)考古学的資料の収集、(2)民族考古学的成果の活用、(3)文献資料の渉猟である。この3つの視点に基づき、西アジアにおける垂直焔式土器焼成窯の発生、系譜をまとめ、その社会経済的役割について考察し、添付した報告書にまとめた。その概要をまとめると、 (1)西アジアの土器焼成窯は、紀元前6千年期初頭の単室構造ピット窯で始まり、同半ば頃に複室構造の垂直焔式窯が成立したこと、その転換には商品性の高い彩紋土器などの製作の必要性が背景にあったこと。その契機となった時期はハラフ期に求められること。また家内消費的な粗製土器は、垂直焔式窯が成立した後も、ピット窯ないしは野焼きで製作され続けていたことも判明した。(2)申請者が平成6年度に約半年間にわたって収集したシリアでの民族考古学的調査データの中から土器製作にかかわる部分を抽出し、現代の垂直焔式土器焼成窯の各部位の計測値や構造,及び窯ごとの土器生産量などを整理したデータを用いて、先史時代の土器焼成窯の生産量の推定を行った。その結果、先史時代の特に垂直焔式窯の生産力は考えていた以上に強力で、少なくとも一度に数百個単位で焼成されていたことが判明した。(3)12、13世紀中世イスラム社会で編まれたヤク-トハムエのMajam al-Bldanから、当時のシリア北西部で行われていた土器生産の様子を解析した。その結果、石灰岩風化土を利用した「赤い土器」の生産がアルマナーズ地方を中心に行われており、考古資料や民族資料と合致することが判明した。 本研究を通じて、西アジアでは本格的土器の生産が開始された直後に土器の商品生産が開始されていることが明確となった。これは人間社会の発展を考察するときに一視点となる職業専業化のはじまりの問題に一つの回答を与えるものである。
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