研究概要 |
本研究では以下に述べる三つの目標を設定し、それに対して次のような成果を挙げた。 1.アル・ジャフル盆地表採石器資料の整理・分析:資料の属性記述・実測・写真撮影・遺跡図面整理を完了した。 2.同資料のデータベース化:表採資料の基本的属性・計測データ・実測図を含むカード型データベースを作成した。今後、若干の修正を加えた上で、ヨルダン国の遺跡データベースに提供する予定である。ただし、写真画像データについては容量の問題があり、一部のみを入力するに止まった。 3.比較研究:アル・ジャフル盆地を含むレヴァント地方内陸部乾燥地帯の先史文化を比較研究した結果、以下のような成果・見通しが得られた。 (1)アズラック盆地とネゲブ・シナイ半島との間に介在する大きな地理的空白が、レヴァント地方内陸部先史文化の比較研究を阻害していた。しかしアル・ジャフル盆地がその空白を埋めることが判明した。同盆地の表採資料は、中期・後期旧石器時代から、新石器時代・金石併用期・前期青銅器時代に至るまでの、広範な内容を含むことが判明した。 (2)表採遺跡の中で最も注目されるJF9503遺跡の年代は、紀元前4千年紀後半あるいは同3千年期の初頭であることが判明した。 (3)JF9503遺跡の表採資料が、羊毛刈り用と推定されている特異な大型石器(Tabular Scraper)やその石核類を多く含んでいることが、主にネゲブ・シナイ方面の遺跡群との比較によって判明した.従って,この遺跡はTabular Scraperの製作址と想定できる。この遺跡を核として、紀元前4千年紀後半あるいは同3千年期の初頭における都市定住民・定住農耕民と遊牧民との交益関係を具体的に追跡することが可能になった。
|