研究概要 |
1,昨年度に引き続き,鏡鋳型を中心とする鋳造関連資料の収集をすすめるとともに、鏡を製作した遺跡の性格や生産工人について、文献史料もまじえて検討をおこなった。 京都市内のとくにJR京都駅周辺平安京八条三坊の諸遺跡から、中世の鏡鋳型の出土があいついでいる。中世前半の鏡作り工人の本拠が、ここに集中していたことは疑いなく、銅細工を中心とする工房とみられる。また、埼玉県坂戸市金井遺跡B区や大阪府堺市余部遺跡などの中世前半の鋳造遺跡においても、ごくわずかながら鏡の鋳型が出土している。この両遺跡では、梵鐘のほか鋳鉄の鍋や釜を鋳造しており、鋳物師の工房とみられる。鎌倉後期に成立した『東北院職人歌合』の鋳物師の詠歌には、「月影をもゝたびみがくあらし哉/これやますみのかがみなるらん」とあり、鋳物師が鏡磨きの工程に関与していることを暗示している。上記の遺跡のありかたや文献史料は、中世前半において鋳物師も鏡の鋳造にかかわったことを示すものであろう。 2,銅滓の文化財科学的調査は,岡山市加茂政所遺跡鋳造遺構出土銅滓試料(11〜12世紀)を対象に実施した。 政所遺跡出土の金属塊から0.2gを切り出して試料とし、分析には電子顕微鏡と附属のX線分析装置を使用した。その結果、成分は重量比で銅77.13%、鉛18.08%であり、非常に純度の高い銅に鉛が添加された金属であることが判明した。奈良時代の銅合金によく検出される砒素や錫が検出されず、このころから銅合金の組成が、砒素銅から変化してゆくのではないかという微証がえられたと考える。今後さらに検討を進めたい。
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