本研究の目的は、江戸および周辺村落の墓制のなかでも特に墓標・埋葬施設をとり上げ、その分析を通して都市と村落の墓制の変遷、両者の独自性と共通性を明らかにすることであった。こうした目的にしたがって、以下のような研究成果をあげることができた。 文献史料をもとにして、大名および代表的な旗本の江戸府内および周辺所在の墓所のリストを作成した。また、江戸府内の墓の発掘事例をもとに、埋葬施設の構造・規模、副葬品の種類・数量に関するデータベースを作成した。対象としたのは、港区増上寺徳川将軍墓・同子院群、天徳寺浄品院、新宿区自證院、発昌寺、円応寺、台東区寛永寺護国院などの発掘調査のデータである。さらに、新宿区新宿歴史博物館蔵の故河越逸行氏資料などの1980年代以前の発掘資料を実見した。 江戸の周辺村落の墓の発掘事例をもとに、埋葬施設の構造・規模、副葬品の種類・数量に関するデータベースを作成した。対象としたのは、多摩ニュータウン遺跡群、宇津木台遺跡群、真光寺・広袴遺跡群、南養寺遺跡などの発掘調査のデータである。また、現存する大名墓として、品川区東海寺旧妙解院所在の肥後熊本藩主細川家墓所、東久留米市米津寺所在の米津家墓所、旗本の墓として荒川区本行寺所在の太田家墓所を実見した。 こうした研究によって、江戸および周辺村落の墓制における墓標・埋葬施設は、都市と村落に共通した変遷をたどりながら、都市においては身分・階層を明確に反映していたことが明らかになった。
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