本研究は文化財科学の一分野として、自然科学的な方法を文化財へ応用することで、従来の考古学や歴史学などの研究方法だけではわからなかった内容を材料という観点から理解し、歴史の理解をより深く掘り下げようとする試みである。 東アジアの歴史の中で青銅器が日本へ導入されたのは紀元前3世紀頃の弥生時代とされており、日本文化の形成へと続く。この最初の導入期に、大陸あるいは朝鮮半島とのかかわりあいにおいて、どのような青銅材料が、どの様にして日本へもたらされ、いかに青銅文化として拡がっていったかを理解しようとした。このために、青銅器の材料である金属そのものの理解のために、自然科学的な方法として化学組成と鉛同位体比を測定した。 本研究では主として日本へもたらされた青銅材料および製品に関して、鉛同位体比を約150点以上測定し、蛍光X線分析法による化学組成をほぼ100点以上測定した。これら資料は国立の博物館を中心として、地方の教育委員会、埋蔵文化財センターなどの所蔵品である場合が多いので、報告書としてまとめた。 測定された資料が示す鉛同位体比および化学組成は今までの考え方に矛盾するケースはなく、おおむね今までの考え方をより精密化することができた。これらの測定から、北九州と近畿地方という当時の繁栄地における青銅製品も大切であるが、地方への伝汎を理解するために各地方の遺跡から資料が集められ、測定されることが今後の理解のために有益であろう。
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