研究概要 |
シリア西北部に位置するテル・マストゥーマは,1980年より古代オリエント博物館による8次にわたる発掘調査が実施され,新石器時代,青銅器時代(前期/中期),鉄器時代,ペルシア時代の文化層が確認されてきた。とりわけテル・マストゥーマの鉄器時代は建築遺構から5層に細分されていたが,第I-1層及び第I-2層では無文土器が主体で,彩文土器は全体の1%以下であった。鉄器時代の上層と比較して下層の第I-3層出土の煮沸用土器,把手付壺に注目するとやや異なる土器の様相が明らかとなった。これらの土器はイタリア隊が発掘を継続している都市遺跡テル・アフィスの鉄器時代I期に類例が見られた。従って第I-3層以下第I-5層は紀元前1100〜900年頃の鉄器時代I期に相当する可能性がでてきた。さらに第I-3層以下では鉄器時代II期(紀元前900〜720年頃)に東地中海世界で広く流通したBlack on Red Waresは出土していないのが確認された。このほかテル・マストゥーマから出土した搬入土器には二彩同心円文を施したPirglim flasksが見つかっているが,パレスティナの鉄器時代I期のBichrome ware,やや時期が下るがPoenician potteryとの類似性が認められた。これら在地系と搬入系の詳細な比較研究により,北シリア内陸部のみならずパレスティナ及び東地中海沿岸地域との土器編年が明確になるものと期待される。 青銅器時代では前期に相当する第VI層から第XIV層の出土遺物を焦点に作業が進められた。その結果,第XIII層が前3千年紀の前半に遡ることが明らかとなった。 テル・マストゥーマ出土の鉄試料43点について分析を委託した。鉄器及び鉱滓の組成・定量分析により,産地同定,流通,鉄器の製作技法についての解明が待たれる。
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