近世本草書のうち、貝原益軒、直海龍、平賀源内、松岡恕庵、小野蘭山らの著作について国立国会図書館、東京国立博物館資料館、国立公文書館内閣文庫、西尾市立岩瀬文庫、武田科学振興財団杏雨書屋において書誌的な調査を行い、特に小野蘭山の採薬記に関係する書はその全部について複写を得た。 調査の過程で、従来の本草学研究に漏れていた採薬記の一つ『房総常州採薬記』を新たに見出し、同時に、内閣文庫に所蔵される5種の採薬記が蘭山自筆本であろうとの徴証を得ることができた。それらの詳細は、別記論文「小野蘭山の『採薬記』について-『房総常州採薬記』の紹介をかねて-」で述べた所である。採薬記については、関連文献とともに、すべてをパソコンに入力し終えており、それらに記載された方言記事を抽出して五十音順に並べかえた一覧を作成した。その一部は別記論文「小野蘭山『採薬記』所蔵の方言(1)」として発表したが、なお続稿を公表する予定である。 その他の本草書については、個々の著作ごとに方言記事の抽出とパソコンへの入力を順次進めた。方言記事の集大成である小野蘭山の『伊呂波別動植物名彙』の解読と入力、推敲に意外に労力を要したため、予定した著作の総てを終了することはできなかったが、おおむね順調に資料収集は進んでいる。 データベース化するための記事の加工も平行して進めている。最良のデータ形式についてなお工夫を要する点があり、来年度に実現させる計画である。
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