1.近世後期の本草学者小野蘭山が享和元年(1801)〜文化2年(1805)の間に、6度の採薬旅行を行い、それぞれ採薬記を著していることを明らかにした。特に、第4回採薬旅行(房総半島一周と常陸国巡回)については、従来ほとんど知られていなかったが、本研究によって、東京国立博物館に蘭山自筆本から写された写本2部があることを見出し、その詳細な内容を報告した。 2.前記の書誌的検討に基づいて、蘭山のすべての採薬記について正確な本文を作成した上で、そこに記載されている方言記事を抽出し、五十音順に排列した一覧を作成した。 3.丹波頼理『薬名備考和訓鈔』(文化4年刊)の中に、数多くの方言が含まれていることを見出し、その一部は蘭山の採薬記から方言記事を抜き出したものであることを明らかにした。この事実は、同時代における蘭山の採薬記利用の唯一の事例である。 4.従来から知られている近世本草書のうち、貝原益軒、松岡玄達、直海龍、平賀源内らの著書について、写真資料を収集し、それらに記載のある方言記事を抜き出してパソコンへ入力した。このデータは、「近世本書所載方言データベース」の基礎資料となるものである。 5.地方における採薬記の一例として、山本良臣『雲州採薬記事』について調査を行い、杏雨書屋本を翻刻した。著者との関連で、松江藩医師山本家3代の学問的業績について従来の知見を大幅に広めた。 6.松江日赤病院医学図書室に旧松江藩医学校「存済館」の旧蔵書が保管されていることを見出し、調査を行った結果、重要な各種の本草学関係図書があることを知ることができた。
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