本研究は、『平家物語』の本文生成論のための基礎的研究として、従来知られることのなかった右田毛利家本系統諸本について二年度にわたって調査・研究するものであるが、予備調査も含めて本年度までに、右田本(山口県立図書館蔵)・諏訪本(諏訪市立図書館蔵)の全巻及び相模本(相模女子大学附属図書館蔵)・小野本(岡山大学附属図書館蔵)・松雲本(大東急記念文庫蔵)の一部がこの系統に属することを明らかにしてきた。そこで、改めて右田本・諏訪本・相模本を実地に調査するとともに、これらの本文を写真撮影等により収集し(他本は市販のマイクロフィルム等に収められている)、本文研究の準備を整えた。 その上で、右田・諏訪・相模の主要三本について校合を行った結果、右田・諏訪両本は親本を同じくする兄弟本であること、相模本の巻一・四・五・七・八・九・十一も同類であることが判明した。本年度の研究成果のうち、右田本の覚一本系諸巻及び「灌頂巻」相当部については論文としてまとめたが(岐阜大学国語国文学第24号・岐阜大学教育学部研究報告第45巻第2号)、ここでは覚一本系諸巻は第一類本から第二類本に至る中間段階の本文を伝え、「灌頂巻」は下村本系の取り合わせであるという結論を得ている。一方、相模本については古典文庫に本文の活字化を進めている。 なお、次年度は問題の諸本の生成・伝来環境に注意を払いつつ、なお新しいテキストの発掘に努めるとともに(高倉寺本の一部が本系統に関わる可能性が高い)、右田本の独自本文の成り立ちを、巻七・巻十二を中心に他系統との関わりのもとに検証していく予定である。
|