この研究は、『平家物語』の本文生成の実態を明らかにするための基礎的研究として、新出の右田毛利家本系統の諸本について、二年度にわたって調査・研究するものであった。 昨年度はまず右田本(山口県立図書館蔵)・諏訪本(諏訪市立図書館蔵)・相模本(相模女子大学附属図書館蔵)・小野本(岡山大学附属図書館蔵)・松雲本(大東急記念文庫蔵)の5本がこの系統に属することを明らかにした。そして、写真撮影等によるそれらの本文の収集に努めるとともに、右田・諏訪・相模の主要三本の関係を明らかにしてきた。 今年度は引き続き松雲本を中心にこれらの諸本の関係について検討したが、その結果、松雲本は相模本と近似し、兄弟関係に立つことを明らかにすることが出来た。また新たに高倉寺本(天理図書館蔵)に注目して調査を進めたが、この本も同類の本文を含むことを知り得た。 一方、この系統の諸本研究上の重要性に鑑み、相模本を古典文庫に活字化して紹介してきたが、昨年度に上・中巻(巻一〜八)を刊行、下巻も解説を付して近刊の運びとなった。 なお、右田本系統諸本はいずれも複数のテキストの取り合わせから成るものであり、巻単位の検討が不可避であったが、この研究によって『平家物語』の諸本(特に八坂系)研究にあっては巻単位の検討が必要なことが指し示された。これは方法上の成果の一つである。 おわりに、本研究にはなお残された課題も多いが、とりわけ1.このように巻毎に系統を異にするテキストを取り合わせる本文生成の実態の解明、2.右田本の独自本文(旧右田本)の生成論的位置づけ、3.右田本の作品論的読み、などが重要な問題になる。
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