保坂本源氏物語(東京国立博物館蔵、重要美術品指定)は、前半の17帖は室町期の補写、浮舟巻を欠く残りの36帖が鎌倉期の古写で、そのうち34帖が別本の本文を持つ貴重な存在である。他の別本の本文との比較をしながら、保坂本の本文の書誌的な調査と、独自の性格についても研究を進めていった。具体的な成果と、これまでの研究実績は以下の通りである。(1)保坂本源氏物語本文の表現の特色として、「けはひ」と「けしき」のことばを取り上げ、青表紙本との違いなどを考察し、独自の用法による世界を持っていることなど、具体的な成果を得ることができた。(2)保坂本の書誌的な研究では、ミセケチや上書きによる本文を詳細に検討し、それがどのような本文であったのか、後人によって手の加えられた本文とのかかわりなどを明らかにしていった。この成果は、平成9年度に公表する予定である。(3)他の別本とのかかわりについては、天理図書館蔵国冬本、鹿児島大学玉里文庫蔵源氏物語などと比較し、保坂本の位置づけについて考察した。なお、保坂本の翻字作業は、現在鋭意継続しているところである。
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