宋・元版、五山版等の書誌的調査を都内の書陵部・内閣文庫・大東急記念文庫等に赴き、行なった。とりわけ、宋・元版とその覆刻を予想させる五山版とを選び、刻工名を始め欠画・墨格などの有無を毎丁にわたって詳細に記録した。その過程で生じた問題点について、『圜悟心要』を軸に報告したが、完了には至らなかった。 関西への訪書調査は、仏書・聖教類を中心とした、舶載書をいかに受容したかの問題に関する調査と、宋・元版、五山版そのものの調査とにわけて行なった。東寺・醍醐寺において、平安末・鎌倉初頃に活躍した「宋芯蒭」「空躰」の自筆墨書を有する令写本を見出し、伊勢の神祇書類との関連を窺わせる貴重な資料である点を学会シンポジウム(説話文学会、於早稲田大学)などにおいて、あきらかにした。関連資料の補充調査として神宮文庫に赴き、『神道切紙』を始めとした真言(律)系の中世神祇書の書誌的調査をも行なったが、渡来宋人を介した宋代思潮と神祇思想との関連は、今後の重要な課題となることが、十分に予想されるものとなった。宋元版、五山版そのものの調査に関しては、京都大学人文科学研究所の研究班「文献と情報」班に加えて戴いたことを機に、建仁寺両足院の貴重な典籍類の調査が可能となったのは、幸であった。先学の成果の追認作業におわることの多い調査となったが、未だ十分に認識されることのないままに看過されてきた宋・元刊の禅籍数点を確認し、詳細な書誌調査を基に、諸機関・文庫蔵本との比較を行ない、現在も継続中である。
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