柳亭種彦の基礎的研究の一環として柳亭種彦年譜の作製と種彦の書誌的研究のである『好色本目録』『吉原書籍目録』『柳亭種彦浄瑠璃本目録』『柳亭種彦俳書文庫』『柳亭種彦蔵書目録』等の書目録の諸本収集とその入力に勉めた。その校合により、従来信用性に欠けたこれらの書目類の利用価値が高まることが期待される。 年譜に関しては、種彦の旧蔵書の識語を中心に調査し、柿衛文庫所蔵『落花集』、都立中央図書館『袖草子』、名古屋市蓬左文庫『続学舎随筆』等の調査を行い、また東京大学洒竹文庫・霞亭文庫等の種彦旧蔵本をマイクロフィルムにより確認することにより、その書誌的研究の一部が明らかになってきた。これもデータベース化を進めている。また書簡に関しては、国立国会図書館・東海大学に所蔵されるもの、また名古屋市蓬左文庫所蔵の『代睡漫抄』に収録された書簡写し、及び『今昔』その他にかつて紹介された書簡等を調査して、現存するものについてはほぼその全貌を捉えることができた。また読本や合巻・人情本等については京都大学・大阪府立図書館等を調査し、資料の収集を行った。平成九年度以降はさらに前記の図書館の外、天理図書館・早稲田大学図書館等の調査を行う予定である。それに基づくデータベースを現在構築中で、平成十年中に完成する予定である。 さらに年譜については種彦の伝記資料が少ないため、同時代の出板システム、なかでも改(検閲)による影響の検討を始めた。その結果、種彦の読本『奴の小まん』の本文の改変がロシアのクナシリ・エトロフ島襲撃などの影響によることが明白となった。このほかに種彦の後継者と目された柳下亭種員や二代目の柳亭種彦を襲名した笠亭仙果に関する調査を行った。その結果種彦の影響が明治に至るまで幅広く覆っていることが明らかになった。
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