1.今年度は中世における未来記の実態を掌握するために、所在調査と資料収集を試みた。主に西日本に重点をおき、高野山大学付属図書館、東大寺図書館、奈良女子大学付属図書館、興福寺、京都大学付属図書館、京都府立図書館、島原市立図書館、弥彦神社、国上寺等々に赴いた。しかし、高野山大学をはじめ、未来記の所在が目録等に明記されているにもかかわらず、閲覧請求しても所在が確認できなかったり、資料の保存状態が悪くて閲覧できなかった箇所も少なくなく、必ずしも資料収集は円滑には進まなかった。逆に興福寺など、従来なかなか入ることのできない所に初めて調査に伺え、『聖徳太子伝』にまつわる貴重な資料を発見することもできた。 2.従来、どちらかというと、未来記の中でも早くから日本に伝わり影響を及ぼしていた『野馬台詩』に重点をおいていたが、今年度の科研費によりさらに視野をひろげ、中世にとくにさまざまなかたちで展開される『聖徳太子未来記』に比重を移すことが可能になった。『聖徳太子未来記』の方が資料が多く、いまだ埋もれている多様な『聖徳太子伝』に未来記が入っている可能性が多くあるからである。興福寺の調査もその成果の一つである。科研費で購入したカメラで撮影も行った。 3.また、夏に研究室にパソコンを入れることができ、一気に機動力が増し、海外との通信や国文学研究資料館のデータベース検索などが自由にできるようになり、やはり科研費で購入した製本器とあわせ、収集した資料の整理、入力におおいに役立っている。 以上の成果にもとづき、不十分ながら、大倉精神文化研究所、慶応大学中世文学研究会、横浜市立大学研究会等々の場で中世における未来記についての口頭発表を行った。それに応じて、中世の未来記のテーマで某出版社から著書をまとめる話が内定した。
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