従来、中世の文学史や文化史の中で埋もれていた未来記というテキストに照明を当てて、資料発掘と収集からはじめ、その整理分析、紹介などをふまえ、その意義を総合的、体系的にとらえることを試みた。主な調査対象は金沢文庫、内閣文庫、静嘉堂文庫、早稲田大学、善通寺、高野山大学、叡山文庫等々である。その結果、金沢文庫の聖武天皇関係の未来記をはじめ、様々な貴重な資料を発見することができた。科研費で購入したパソコンやカメラをフルに活用できた。具体的には、今まで『野馬台詩』を中心にみていたが、本研究により、もうひとつの未来記の核である『聖徳太子未来記』にも視野が及び、9年度には『聖徳太子未来記』をテーマに岩波書店の『文学』の中世特集号に寄稿することができた。さらに『野馬台詩』と『聖徳太子未来記』双方に密接な対応があり、双方に深くかかわる人物に『太平記』で著名な人物の玄恵がいることが判明した。10年度に中世文学会で依頼された講演「中世の未来記と注釈」でその報告を行った。『中世文学』に掲載される予定である。またその間、大倉精神文化研究所、横浜市立大学、慶応大学、昭和女子大学等々で、未来記に関する講演や研究発表を行った。その結果、未来記現象といってよいほど、多方面に及び、時代も近世から近代に続くことが明らかになり、〈日本紀〉に相当する歴史記述の形態として無視できない領域であることが浮き彫りされてきた。報告書として論考篇・資料篇をまとめたが、さらに充実させ、出版したいと考えている。
|