1.中世萬葉集古注釈書の諸本の現存状況を調査した結果、由阿が『詞林采葉抄』については写本65本、著者末詳『萬葉集註釈』(一般には「萬葉集目安」)については写本15本、版本13本が現存しているという情報を得た。 2.三條西家旧蔵学習院大学文学部日本語日本文学科研究蔵『萬葉集註釈』(「萬葉集目安」)の原本調査の結果、現存最古で、かつ書写の過程で失われた語釈や異訓を数多く止める善本であることが判明した。 3. 三条西家旧蔵学習院大学文学部日本語日本文学科研究蔵『萬葉集註釈』(「萬葉集目安」)の書入を検討した結果、2箇所の「私範政云」という書入が今川範政のものであり、これにより『萬葉集註釈』(「萬葉集目安」)の成立年代を応安7年(1374)から範政没年の永享5年(1433)に絞ることが可能になった。さらに語釈の検討の結果、由阿『拾遺采葉抄』(貞治6年(1376))の強い影響を受けていることが判明し、その成立がむしろ上限に近く、著者は由阿・二条良基の周辺の人物と推測された。 4. 三条西家旧蔵学習院大学文学部日本語日本文学科研究蔵『萬葉集註釈』(「萬葉集目安」)の翻刻を完了した。現在諸本との校合を進行中であり、近い将来その成果を校本として公表する予定である。 5.仙覚『萬葉集註釈』の説と、仙覚以後の中世萬葉集古注釈書の説との比較対照を行うため基礎資料として、仙覚『萬葉集註釈』の被注萬葉歌・被注萬葉語句一覧を作成した。その際「所属語句」の項目を設けるなどの実験的な試みを行った。 6. 仙覚『萬葉集註釈』の説と、仙覚以後の中世萬葉集古注釈書の説との比較対照を概括的に行った結果、仙覚説が直ちに京の古典学に影響を及ぼしたのではなく、14世紀後半の由阿、15世紀末の宗祇・三條西実隆・中御門宣胤によって段階的に受容されたことが判明した。今後さらに詳細かつ網羅的な比較対照を行う予定である。
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