1)前年に引き続き東洋文庫、東京大学東洋文化研究所図書館などで資料収集につとめ、また研究上必要な新規図書を購入した。このようにして集積された資料をもとに研究を進めたが、最終年の本年度は清末から民国に至る国語統一運動の流れをあとづけ、その言語思想史上の意味を総合的に解明することを試みた。 2)平成9年12月26日より平成10年1月3日まで、本研究経費による海外出張を行い、中国北京市にて専門研究者からの情報提供を受けた。主な活動は次の通り。 ・平成9年12月30日、中国社会科学院近代史研究所にて研究報告と意見交換を行う。 中国側出席者は、同研究所丁守和研究員、李長莉副研究員、鄭匡民助理研究員ら約20名。 ・平成10年1月2日、清華大学思想文化研究所訪問。 同大学教授劉桂生教授、董士偉副教授から民国文化史についてのヒアリング。 3)上記で得られた知見のうち、最も重要と思われるのは、近代中国における俗語運動が先発近代化諸国との共通面を多くもちながら、他面ではまた書記言語の連続性という中国に特殊な事情が存在していた、ということである。すなわち、西洋や日本における俗語革命・言文一致運動が「帝国言語」からの自立・解放の契機を含んでいたのに対して、中国では書記面における「帝国言語」との断絶がなかったため、かえって俗語の純粋化・規範化を唱える「国語」運動が、民国初年の読音統一会、五四白話革命、30年代の大衆語論争・民族形式論争といったかたちで繰り返し問われることになったといえる。言語現象を通じて近代中国の国民統合の問題を考える場合、そのような地域の特殊性とナショナリズムのある種の普遍性との関係を踏まえる必要があるというのが、本研究から得られたとりあえずの結論である。
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