現存する琉球官話課本と関連資料の収集、及び官話課本に現代中国語訳と日訳をほどこすのが今年度の主な研究計画である。そのための国内出張を既に数回実施し、天理大学附属図書館蔵の《琉球官話五種》、沖縄県立博物館蔵の《白姓官話》、琉球大学図書館蔵の《官話問答便語》、石垣島八重山博物館蔵の《官話問答》等の写本を入手している。それらの課本の比較対照作業が今後の焦点課題となるが、更に長崎通事、薩摩通事が官話学習のために使用していたとされる課本を収集し、琉球官話との差異についても整理したい。 一方では、琉球の社会で官話課本がどのような情況下で編纂され、それらが同地域における官話学習の確立にどう寄与して行ったかという過程について研究することも必要である。こうした観点から主として明清時代の琉球に関する史料の調査と収集にも積極的に取り組んだ。琉球大学、沖縄大学、沖縄県立図書館、県立博物館、久米島町役場等に設置された郷土史料コーナーにも足を運び、冊封使録、進貢貿易、官生と勤学、久米村の人々の家譜等を中心に調査を実施している。その結果、当時の琉球における政治体制、中国との深いかかわり、そして必然的な官話学習熱の高まりと琉球官話課本成立という背景が浮き彫りにされて来た。具体的な作業としては、官話課本の一種《学官話》の現代中国語訳を終了し、現在訳注に取りかかっている。次年度はそれらの作業をベースとして、課本の言語を色々な角度から分析し、その特色をまとめて行きたい。琉球官話課本の言語的特色を明らかにしながら、そのベースとなった中国南方地域における清代の官話そのものに目を向け、"語学教本"の観点から中国語史上の位置づけを試みるのも、本研究の重要な目標である。
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