昨年度は、主として現存する琉球官話課本の写本を中心に資料収集を実施した。今年度は琉球官話の背景となる琉球国史等、又長崎通事や薩摩通事が使用していたと言われる写本の収集に重点を置いた。その結果、「南山俗語考」「唐話」等の写本を収集できた。特に「長崎と中国文化」の関係資料を予想以上に収集できたことは、今後琉球官話課本とのかかわりを調べる上で大いに役立つものと考える。又夫々の課本について言語(官話)における語いの移動、文法の相違点を整理していくことにより、18世紀中期以降の日本・琉球における官話学習の形態と中国との交流史を明らかにすることが可能となる。同時に琉球官話課本の位置付けもより鮮明になるものと思われる。 琉球官話課本の内容は多岐にわたっており、詳細にチェックした上で整理する必要がある。そのためには各々の課本の訳注が不可欠である。今年度は会話課本の一種≪学官話≫の現代中国語訳と日訳を試みたが、今後序々に全課本の翻訳作業を進行させたい。その結果、当時の琉球と中国の政治的、経済的な結びつき、留学生たちの中国での生活情況、琉球国の生活習慣と政治体制、言語文化が浮き彫りにされることを期待している。さらに課本の内容と琉球国の歴史資料を同時代的に比較検討すれば、琉球官話課本が言語資料のみにとどまらず、史学面での研究材料ともなり得ることが予想される。琉球官話課本の総合的な研究を媒体として、日本における中国語教育史の空白部分を埋めるとともに、清代の広大な南方地域で使われた官話を体系的に把握し、それが非北京官話化によって流行して行った現象も琉球官話課本の言語的特色から導き出したいと考えている。
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