研究概要 |
研究の前半にあたる今年度では、音韻理論の原理的な体系をまとめ、主要な仮説を提示し、さらに進んで可能な限り具体的な検証作業を行うということが課題となっている。今年度はこれに関連して四つの論考を執筆し公刊した。第1に「音韻論におけるSpreadαの可能性」(『音韻論の諸相』、音韻論研究会、開拓社)においてはこの研究課題の中心的な仮説の一つである音韻規則の統合化を英語の三つの現象との関わりで予備的に検証を行った。第2に『一般音韻論の体系-一般音韻論の統合と簡潔化について-』では音韻理論の原理的な体系をまとめ、主要な仮説を提示した。Spreadαへの音韻規則群の統合化は、次に四つの原理によって支えられている。(i)構造保持・不完全指定という下位原理を内包する語彙音韻論、(ii)統語構造と音韻構造の写像原理の体系であるプロソディー音韻論、(iii)音韻素性に関しての素性シオメトリーの理論、そして(iv)言語的リズムそして強勢に対する韻律音韻論的な、テンプレートアプローチである。これらが相互作用することによってSpreadα自体もまたAvoidφという原理から帰結するものであるということを本論では主張した。第3に"Vowel Harmony in Yoruba,Wolof,and Lango"(Artes Liberales 59)においては、上記のSpreadαの適用の指向性が母音調和の現象においてもまたプロソディー音韻論と語彙音韻論の諸原理によって支配されているということを示した。第4に"On the Form of Default Rules in Phonology"(『小池稔・熊田健二教授退官記念論集』)においては言語普遍的な音韻論的属性であるDefault Ruleの形式を厳密に規定することによってドイツ語のいくつかの音韻過程に関する説明が大幅に簡略化されるということを主張した。
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