研究期間の後半にあたる9年度では、(i)一般音韻論の体系の極小化の可能性、(ii)その自然言語の音韻過程との突き合わせ、そして(iii)音韻理論の概念的必然性の検討、の3点を追求した。その内容は研究成果報告書『一般音韻論の極小化』においてまとめてある。理論的な極小化は、Spread αという音韻的な操作がどのような原理によって制限されるか、という視点から検討された。この研究期間の、特筆すべき成果は軟音化・硬音化という音韻論的な概念を原理とパラメータの観点から再解釈を加える可能性を提起したということであろう。たとえば難音化は、母音間のコーダ位置において行われるという点は既に観察されてきたことであるが、私はこの研究でそのような位置において弾音化、有声化、摩擦音化、声門音化、そして脱落という現象が自然言語の音声現象において認められることに着目し、それらをそれらの音韻過程の個別言語レベルでの具現をパラメータとして規定するべきことを主張した。これによって母音間において弾音化を選択する個別言語においては、そのような位置での摩擦音化や声門音化観察されない、という予測を行うことになる。実際アメリカ英語はそのような選択を行っているとみなすことができる。この期間の最終盤に近づき、理論形式の概念的な必然性という問題をとりあげる展開となった。この点についてもまとめてあるが、この点に関しては今後の研究が必要であり、生理音声学や調音音声学の研究的な蓄積から積極的に情報を取り入れ作業を進めていく必要性がある。
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