イギリスロマン派詩人・画家・彫版師ウィリアム・ブレイク(William Blake)の作品のうち、ステッドマン著『スリナム物語』(1796年)のために彫版した16枚のブレイク彫版画に焦点をあてて、そこにみられる女性の表象をポストコロニアリズの文脈で分析した。 まず視覚芸術における植民地主義のテーマの表象を把握するために、十八世紀のイギリスをはじめとするヨーロッパの絵画・版画において、主人/奴隷という関係がどのように描かれているかを考察した。この考察のさい、「女性」の表象に重点をおいた。なぜなら、植民地主義の征服者/被征服者の関係は、しばしば「女性」の表象をつうじて描かれているからである。植民地主義という社会思想が美術にとりこまれた場合の女性の表象を明らかにしたのち、ブレイクが描く女性がいかにそうした伝統から離れているかを分析した。ブレイクが『スリナム物語』につけた彫版画のほかに、飾彩本の数々につけたイラストも視野にいれた。 研究成果は「たたずむ三人の女-ブレイクのポストコロニアル・ヴィジョン」という論文にまとめ、山形和美編『差異と同一化-文学とポストコロニアリズ』(研究社、1997年)のなかの一篇として出版される予定である。
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