本年度は、まず既存の卜書きデータベースの拡充と整備を目指していたが、むしろそれを可能にするハード面(容量の大きいハードディスクを内蔵した高速処理可能なコンピュータ等々)の設置に研究経費の大半を使用せざるを得なかった。同時に、インターネットによってOxford Computer Centerなどの電子テキストを利用し、新たな資料を多く収集することができた。また、シェイクスピア劇の主要な諸版・翻案の電子テキストを収めたCD-ROMも参照する機会があり、これらのメディアを通じて、従来の研究方法では及ばなかった新たな視野を得たように思われる。その成果は、平成8年度の日本シェイクスピア協会大会(立命館大学)において、「シェイクスピア研究とコンピュータ」と題するセミナーで発表し、その一部は論考「100人の騎士-『リア王』のテクスト縦横断」(『筑波イギリス文学』第2号)にまとめた。ここでとった方法は、基本的には、同一作品の複数テクストを並列させ、問題となる場面にそれぞれどのような卜書きがあるのか、あるいは、ないのか、を検討し、その形態の推移について調査することで、当該作品のエリザベス朝における上演の実態に迫るというものである。これを十分に可能とするためにも、関連作品の電子データをできる限り多く収集する必要があり、次年度はさらにその方向で研究を進めることになるだろう。
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