昨年平成8年度は、既存のト書きデータベースの拡充と整備を目指し、あわせて、Oxford Computer Center やCD-ROM等による電子テキストを利用して新たな資料を多く収集することに努めた。エリザベス朝演劇におけるト書きの実態を調査するためには、関連作品のデータをできる限り多く入手する必要があり、今年度も基本的にはそれを継承する方向でデータ収集に時間を費やした。現在、構築したデータベースをもとに、いくつかの鍵となるト書きを選び、その存否、形態の推移について作品ごとに調査が進行中である。また、ト書き研究の関連論文を渉猟し、その研究成果を取り入れながら、データの分析を試みている。まだ具体的な成果は出ていないが、これらの作業を通じ、エリザベス朝演劇の全体にわたってト書きの資料が整備され、それによって、個々の作家を越えた時代のコンヴェンションとしての演劇原理が部分的にも解明されることを目指している。18世紀・19世紀に至る諸版のト書きも調査の対象とし、より現代に近い時代に至るまでの上演形態の変遷を見ることで、逆にエリザベス朝の舞台復元の契機とできればよいと考えている。その結果、ト書き表記そのものの特徴を知ることがエリザベス朝演劇の特殊性を発見することに通じ、ひいては上演に関してこれまで謎とされてきたさまざまな疑問の解明にまで至ることになるだろう。それは次年度以降の課題として持ち越されなければならない。
|