世紀末のダ-ウィニズムと退化の思想を学際的に研究しようとする本研究は、『19世紀』、『隔週評論』、『同時代評論』、『国民評論』、『北米評論』などの総合雑誌に掲載された、19世紀後半のダ-ウィニズム、とくに退化関連の多数の第一次資料を、複写により収集することに努力し、かなりの成果をあげることができた。 また同時に、退化の不安が生み出した優生学についても、多数の第一次資料を集めることができた。さらに数百にのぼる19世紀後半の歴史的・思想的・文学的テクストを、コンピュータの活用により電子化されたかたちで蓄積することにより、キーワード検索のシステムを確立することができた。これは今後の研究上測りしれない恩恵をもたらしてくれるはずである。 以上のような資料収集を行なったうえで、世紀末の文学的テクストを、同時代の社会史的・思想史的テクストとのインターテクスト的関連のなかで新歴史主義的に解釈しながら、退化の思想が世紀末文学にいかに広範な影響力をおよぼしていたかを具体的に論証しようとこころみた。 具体的に選んだ文学テクストは、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(1897)。世紀末に恐怖された退化の形態には、劣悪な都市「環境」による環境論的退化と、劣悪な「遺伝」的素質との結婚による遺伝論的退化の2種類があるが、『ドラキュラ』を後者のタイプの退化恐怖が映し出されている典型的テクストとして解釈した。その成果は、1997年に出版予定の『ドラキュラの文化研究』の一部として公表される予定。
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