本年度の研究は、前年度に作成した創作文体論の「チェック・リスト」を教育の現場で応用するための方法論の確立を目的とした。ただし、実際の英語のクラスにおいて実験をしてみたところ、日本の学生の語学力ではいきなり創作の手順に入ることがかなり困難であることが判明し、準備段階として従来の分析的文体論と創作文体論を組み合わせたようなアクティヴィティを考案することにかなりの時間が費やされることとなった。その過程において、interdisciplinary(英文学や英語学に片寄らない、幅広い研究分野からの方法論の借用)、cross-cultural(英米だけでなく、広く英語圏全般からの教材選択)、transgeneric(従来のテクスト・ジャンルにこだわらない教材選択)という3つの理念を、文体論を用いた新しい英語教育の基本方針として提示した。それを教室で実践するための授業形態として、まずイギリスの文体論学者ウィンドウソンによる実験を叩き台として用いた。ウィンドウソンは、小林一茶の俳句と似たような題材を扱ったワ-ズワ-スの'The Solitary Reaper'(32行)を3行の英文俳句に書き換えるという作業を英語・英文学教育のためのアクティヴィティとして提示しているが、すでに存在している言説を論理的に要約する手順は、言葉をより象徴的に用いる言語文化の代表的な形態である俳句の創作手順とは異なるのではないか。授業中に上記の書き換えを練習問題として提示し、さらに言語文化の差異を議論させることで語学的感受性を高める授業形態を考案し、東大120周年記念の「知の開放」プロジェクトの衛星放送番組、および1月31日のペンギン・セミナーにおいて発表した。
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