異種言語間トランスレーションに必要な、テクストに関する必要、十分な情報を提供するミニマルな知識(辞書と文法を含む)への記号論的アプローチの第一段階としてC・S・パースのセミオーシス(記号過程・現象)=トランスレーションの考え方の基本的解釈を、日常現象としての知識・情報の伝達・継承・蓄積過程の理論的解明を通して行った。 この解明の中核に記号の漸進的トランスレーション/置換の立場を代表するものとしてU・エ-コを、記号の飛躍・跳躍的トランスフォーメーション/変換の立場を代表するものとしてJ・デリダを選び、その対立するセミオーシス観を比較・分析した。前者は記号は精神に等価の、あるいはおそらくより発展した記号を作り出す、と考えるが、後者は記号には起源も終端もなく、つねに記号は無限に変換されると考える。確かに、記号による解釈は過去へと遡行するだけでなく、未来へ跳躍してもゆくが、それはあくまでも論理上言えることである。 ここから前者の実践的立場-文化の生命、テクストの生命においては、すべての「既述のもの」が適応可能な法則として機能し、エンサイクロペディアの内容になる-を支持し、またパースの記号体系間トランスレーションの発想に記号の反復可能性を理解して、セミオーシスを記号の自己複製・増殖過程として解釈する。その結果、人間の知識・情報の解釈・伝達・継承は階層的・重層的構造を取る、という仮説にミニマル・エンサイクロペディアー多様なコンテクスト、環境で多様な等価の体系を始動させる指示を与えるコード-のモデル形成の理論的根拠を求めた。今後、セミオーシスの無限連続可能性という基本特性がエンサイクロペディアの再編纂をつねに求めるなかでミニマルな、あるいはエッセンシャルなものの確立を具体的テクストで行う。
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