今年は1993年に調査したフィリップ・ラ-キンに関する資料の一部の整理をした後、書簡集や伝記などを充分検討しながら、彼の作品の文体やことばの多義性の分析を通じて、彼の詩の特色の一端を明らかにしようと試みた。具体的な成果の一つを「ラ-キン的二重性」と題して京大英文学会1996年年次大会で発表した。それをさらに加筆して『英文学春秋』(1997年4月刊)に発表する。「結婚の風」('Wedding-Wind')は、二面性を持つ「風」のイメジを利用しながら、新婦の喜びと不安の気持ちを同時に歌った詩である。その中で使われている'ravel'は「(二人の身体などが)からまる、もつれる」という意味と「ほどける」という相反する意味を同時に内包する語であるため、結婚の喜びと不安がよりいっそう効果的に表現されているように思われる。このようにある単語の相反する二重の意味をその詩全体にまでおしひろげていく手法が「アランデルの墓」('An Arundel Tomb')においても見られる。つまり'lie'は'ravel'と同じように全く相反する意味(「(一緒に)寝る」と「嘘をつく」)を同時に含んでいて、これが愛の永続性と不安定さ、ロマンティックな見方とシニカルな見方を同時に表す詩のテーマと重なり合っている。ここにもラ-キン的二重性が典型的に見られるのである。 この詩に関しては作品の外の世界でもラ-キン的二重性がアイロニカルな響きを伴いながら展開される。このようにラ-キンの作品は彼の人生と複雑に絡み合いながらその二重性によって特徴づけられている言えよう。
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