研究概要 |
本研究課題の中心であるラーキンの作品の中から主要なものを選び、それぞれに関して、書簡集や伝記などから、作品が書かれるに至った外部的背景を調べた。その後、ラーキン資料館所蔵の手書き草稿を詳細に調査し、初稿から最終稿にみられる単語や韻、詩型を分析していくことによって彼の詩の特質、文体の一端を明らかにしようと試みてきた。1997年に発表した「結婚の風」と「アランデルの墓」を扱った論文「ラーキン的二重性」では、全く反対の意味を同時に内包する単語('ravel','lie')を媒介にして、複雑な男女の仲の二面性が巧妙に描かれていることや、彼の伝記的事実とこの詩がアイロニカルに響きあっていることなどを指摘した。 次に1998年には『英詩の文体論批評―イェイツとラーキンを中心に』を刊行した。この本では一部を除いて、20世紀の英詩を扱っている。これらの論考に共通していることは、テクストの精読を通して作品に迫ろうとしていることである。またいくつかの論考では、従来の批評とは異なる視点を持ち込むことによって、これまで見過ごされていたテクストの緊密な内部構造の一端を明らかにしようと試みている。特にラーキンの場合には伝記的側面が重要な意味を持つため、それを充分考慮して作品を分析している。
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