本研究の目的は、第一に、20世紀初頭イギリス文学におけるモダニズムの不定着の状況を明らかにすること、第二にこのために1920年代後半からマヨルカ島において共同文学活動を行ったロバード・グレイヴズとローラ・ライディングの詩作と批評の性質を正確に分析すること、第三にグレイヴズ詩の資質が本質的に反モダニストであり、イギリス詩の伝統的感覚を継承するものであることを証明することである。 本研究において次の知見を得た。 (1) 初期モダニズムとジョージアニズムの差異を明らかにする過程でモダニスト文学の本質がイギリス文学の伝統的感覚を継承するジョージアニズムと審美的に不調和であることを確認した。 (2) ジョージアニズムを芸術的に弱い思潮とする批評的通念が不適切であることを、オーウェン、サスーン、エドワード、トマス等の戦争詩の分析をとうして証明した。 (3) A Survey of Modernist PoetryからEpilogueに至るグレイヴズ・ライディングの批評理論とモダニズム理論との異同を分析し、クレイヴズの批評感覚とライディングのそれが必ずしも影響/被影響のパタンとして包括し得ないことを明らかにした。 (4) グレイヴス文学の審美的文体的特徴は究極的にライディングのモダニスティックな影響を受け入れるものではなく、共同文学活動中断以降のグレイヴス詩作はグレイヴス本来の詩的主体性の確立を示すことを明らかにした。最終的にはグレイヴズ/ライディングの文学的状況が、近代イギリス文学における伝統主義とモダニズムの不調和を示唆する事例であること証明した。
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