アメリカ文学における20世紀初頭のいわゆるモダニズムの作家たち---ウィリアム・フォークナー、アーネスト・ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズ---は、それまでのリアリズムの手法に飽き足らず、多角的視点の導入、物語の断片化、意識の流れの手法、コラージュやモンタージュ手法を用い、小説空間を立体化・拡大化させることに成功している。このような手法の出現は、価値観が多様化し、これまでの絶対主義的権威主義的なものがもはや通用しなくなった社会の出現と同時期であることから、彼等が影響を受けたヨーロッパの哲学的文化的思潮、なかでも絵画の手法と類似性が極めて高い点に着目し、モダニズムの手法と近代絵画の手法との理論的同質性を探究することで、アメリカモダニズム文学の本質を解明してきた。 (1)アメリカモダニズム文学の技法と絵画の手法との同質性の理論的立証。 過去3年間の研究を通じて、アメリカモダニズムの小説に見られる技法と近代絵画の技法との同質性を理論的に集大成し、その方向性と統一的な理論を確立することができた。 (2)ヘミングウェイコンコーダンスの編纂 ヘミングウェイに関しては、昨年からの継続で、彼の使用語彙から、その文体的特徴を探ろうとコンコーダンスの編纂をやってきた。 (3)研究のまとめと発表---米国・日本の研究者と共同で研究成果の発表 絵画と文学についての関係を重要視している研究者と共同で、今回の成果を、『アメリカ文学と絵画--文学におけるピクトリアリズム』というタイトルで渓水社より平成12年2月25日に出版した。これは、平成12年度の科学研究費の出版助成による発表である。ここでは、アメリカモダニズムの作家を中心に、絵画とかかわり合いの深い他の作家たち、メルヴィル、ホーソーン、ジャック・ケルアックといった作家たちも含め、作家と絵画のかかわり合い、絵画的手法と物語構築の同質性を取り扱っており、執筆陣の一人として、アメリカ文学全体で、絵画及び絵画的手法が文学にどのように影響しているかを概観できるようになっている。日本においては、このような研究はまだ緒についたばかりで極めて先駆的なものということができる。
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