研究概要 |
申請時の研究計画に従い、まず16-17世紀英国社会・家庭における女性の立場,女性観,特にジェンダーの問題を調査,当時女性に許容されていた文筆領域が自伝・日記などの記録,書簡,および宗教書の翻訳であったことを踏まえつつ,次の順序で研究を進め発表した。1.当時の複雑な宗教風土の中で新教徒殉教者として処刑されるまでの経緯を自ら記録したジェントルウ-マンのアン・アスキューの審問記録は国家の教会の男性権力および「沈黙」「従順」のドグマに生命がけで挑戦した軌跡である。2.信仰生活の私的メモ的なジェントルウ-マン、マ-ガレット・ホビーの日記。3.貴族の娘アン・クリフォードが自らの遺産相続権回復のため、国王はじめ多くの男性権力者に挑戦して書いた世俗色の濃い日記。4.エリザベス一世やペンブルック伯夫人メアリ・シドニーの宗教的訳業・マ-ガレット・ダイラーによる世俗的ロマンスの翻訳。5.王権の 父長権による監禁に対する武器として書簡を用いた王族女性アーベラ・スチュアートの生涯と文筆活動。6.時代が課す女の役割に従順に書かれた「母の助言の書」。7.1615年出版のジョゼフ・スエトナムによる女性蔑視論に対し数名の中流女性がそれぞれ執筆した女性擁護論パンフレット。7.中流出身の二人の詩人イザベラ・ホイットニ-の世俗詩,エミリア・ラニアによるフェミニスト的宗教詩。9.女性の文筆が翻訳や記録から創作に移っていく経緯をたどる好例として、貴族の妻エリザベス・ケアリの不幸な結婚生活をそこから生まれた忍従と反抗のドラマ「マリアムの悲劇」-上記の研究実績を次年度に引き継ぎ発展させる予定である。
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