平成8年度の研究成果を踏まえ、16〜17世紀英国社会・家庭における女性の立場、女性観、特にジェンダーの問題の調査を続行。特に9年度はルネッサンス期の英国の宗教や教育の風土に注目した。次の順序で研究を進めた((1)(2)(3)の研究発表は10年度春に予定)。(1)前年度の最後にその劇作品に関して発表したエリザベス・ケアリについての研究を続行。彼女が英国女性として初めて書いた歴史物語『エドワード二世の歴史』が同じ題材に基づく先行男性歴史家や劇作家らによる扱い方といかに異なり、女性独自の視点から「歴史」の見直しをはかったものかを、王妃イザベラ像を中心に考察した。(2)女性に許容されていた文筆領域に翻訳があった。エリザベス朝の代表的文人フィリップ・シドニーの妹メアリが、兄の死後その未完の訳業を継承して完成した旧約聖書「詩篇」の訳業を研究。世間のジェンダー差別に正面から挑戦せず、兄の文名の陰でひそかに才能を伸ばし、女性の生活感覚を生かしたイメージをちりばめてこの一大宗教文献を完成した。(3)メアリ・シドニーの同名の姪メアリ・シドニー・ロウスは、伯父フィリップの代表作『アーケイディア』を踏まえ、その改作女性版として長大な散文ロマンス『ユ-レイニア』を創作。女性禁制の領域に活躍した挑戦的文学の好例である。(4)上記のメアリ・シドニー・ハーバートとメアリ・シドニー・ロウスの比較により、女性文学の二典型に注目して研究発表。(5)ルネッサンス期から時代は19世紀に飛ぶが、英国女性文学の伝統を継承発揮したヴィクトリア朝のブロンテ姉妹(シャーロット、エミリ、アン)の代表作出版150周年記念として『英国青年』誌ブロンテ特集の鼎談に参加、発表を行った。
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