1997年度におけるわれわれの課題「20世紀アメリカと戦争正当化のレトリック」の研究成果として、以下のような重要な進展があった。 1。第1次および第2次世界大戦までのアメリカの戦争においては、その戦争正当化の論理として、19世紀までの膨張主義を正当化するイデオロギー的モット-「マニフェスト・デスティニ-」の影響力が強かったこと。この見方は、とりわけインディアン戦争におけるインディアン憎悪の論理の分析からはじめて、太平洋戦争中の日系人強制収容所の人種的偏見の分析までを展開した研究書、R.ドライノンのFacing West:The Metaphysics of Indian Hating and Empire-Buildingに顕著に認められるものである。ドライノンは「マニフェスト・デスティニ-」に認められるワスプ(WASP)の独善性が、アメリカの世界制覇への帝国主義的野望を支える論理として機能していることを立証している。 2。「マッカーシズム」再考。冷戦期の代表的戦争として、朝鮮戦争およびヴェトナム戦争があげられるが、これらの戦争を正当化する論理として、反供十字軍的イデオロギーの極端なケースとして「マッカーシズム」の影響があったことは歴史的事実である。国内的に「赤狩り」または「魔女狩り」として知られるこの運動の分析として、M.P. ロギンの研究所The Intellectuals and McCarthy:The Radical Specterは「マッカーシズム」が根強い影響力を維持していた農業州(南北ダコタ州)における保守的傾向を分析して、「反共主義」に対する幻影的な煽動力の本質を究明している。 3。「ハイテク武力優先主義」。湾岸戦争等に見られるように、21世紀の戦争を展望するとき、もはやイデオロギーというよりは、メディアを含むテクノロジーの戦争という性格が強くなってくる。これらの分析が現在最も緊急な研究対象となっているのである。
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