中英語を含む写本についての記述のある目録を可能な限り入手しながら、リサーチのため特に作成したフォーマットに記録する作業を続けた。そこには目録から得られた各写本に関する様々な情報を、写本を所蔵する図書館等のある場所のアルファベット順に、図書館等の名前・写本登録番号・筆写された時期・羊皮紙か紙か・写本のサイズ・一段組みか二段組みか・書体・そこに含まれる主な作品と他のテキストの言語・中世および近世における所有者と利用者・その写本についての参考文献リストなどの項目別に1写本1フォーマットに収めた。さらに1写本につき1ファイルを使用し、各写本についての関連資料のコピー等も一緒に収めるようにして整理したので、そのファイルを開けばその写本についてのことがわかるという仕組にした。また、写本の16〜18世紀における所有形態を調べるために、当時の社会背景や有名コレクターについての資料も引き続き多く集め、ファイルを使って利用し易いようにまとめた。インターネットは海外の学者から写本についての情報を集めるために非常に有効な手段となった。 古英語が書かれている多くの優れた写本は修道院の解体の結果、散逸し、主に国策のため特定の人々による必死の努力によって収集され、やがてコレクターの手を経て18世紀末までには保存するのに最も安全な図書館に入る運命を辿った。それに対して、中英語で書かれた美しい写本は富有な商人や豪農などの家ではステイタス・シンボルとなる財産であったので、遺産や嫁入り道具の一部として代々受け継がれた。実用的な中英語による宗教作品等を収録した写本は財産的価値というよりも、修道院でラテン語を読めない者が利用したり、家庭での教育に用いられた。また、カトリックが禁じられた時代に、密かに保存されその思想を保持し普及する地下活動の大きな力となったと考えられる。
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