今年度はおもに、虐げられた者への共鳴と救いの可能性という視点からランボ-自身の詩と詩論をあとづけるとともに、ランボ-に言及はほとんどしないがおおきな共感を寄せていた<カトリック>作家F・モ-リヤックの作品を分析した。その結果はともに学会で発表し(前者はフランス・ヴァランシエンヌ大学での国際研究集会"L'Enjeu poetique"、後者は日本キリスト教文学会全国大会)、かつ論文として公表した。当然ランボ-とモ-リヤックの間には、個人的資質のみならず、時代的・社会的等々さまざまな懸隔があるが、その懸隔のうちに、いわば19世紀から20世紀前半にかけての社会と個人の問題、労働者の問題、自由とか平等といった思想の生んだ光と影が、ひそんでいる。本研究は、両者の間をさらに文学史的・キリスト教思想史的に結び合わさねばならないが、この作業は来年度に行う予定である。
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