中世の公文書研究は若干の文献学者らによって行なわれてきたが、シャンパーニュ地方に関する限り、ここで行なおうとしているような大規模かつ詳細な研究はほとんどなかった。筆者は本科学研究費に先立ち1994年にRecherches linguistiques sur le champenois au moyen age(静岡大学)を世に問うた。しかし当時の資料体には更に細かい分析と検討が必要であった。 平成8年度から平成9年度にかけて資料体を再検討し、よりミクロな視点から証書を分析できるようにするための方策を模索した。その結果、資料体では省略字や判読不能な文字があり、これらは厳密な綴り字分析を行なう際には、別に考えておかなければならないことが判った。また先の著作ではシャンパーニュ南部全般の音声特徴が扱われ、個々の証書に特徴的な現象は考察されていなかった。 平成9年度から平成10年度にかけて、個々の証書のミクロな特徴を分析した。その過程で生まれたのが本報告書にある網羅的語彙集であった。本年度には研究補助者により徹底的なデータ・ベースの綴り字チェックが行なわれた。個々の証書の特徴分析自体を詳細に分析し、報告書にまとめる時間的余裕はなかったものの、網羅的な語彙集を完成できたことによって、ミクロなレベルでの綴り字研究への道が開かれたと確信している。こうした詳細な語彙集は本研究がその先鞭をつけたと言っても過言ではない。
|