研究概要 |
引続きいて認知的・機能的な観点から、フランス語の受動・可能表現を中心とした再帰構文全体を、統一的な意味カテゴリーとして捉え直すことに力を注いだ。フランス語の再帰構文では、その意味タイプにかかわらず、常に主語の指示対象がその構文(動詞)が表わす事行に積極的に参加、あるいは積極的に関わっていることを表しているということを例証した。ヴォイス体系内に於て再帰構文は、他動詞構文のように主語の指示対象以外の対象に働きかけることなく内部充足的な構文であるという位置付けを行なうことができる。自動詞構文とは、主語の指示対象が動詞の表わす事行に積極的に関わっているか否かという点で区別される。再帰という名称も、主語の行偽が主語に戻るという理解から、主語の指示対象の関わり方が自己充足的であるという観点から捉え直すべきである。根強く存在している、再帰構文は主語が受影(affected)しているところに特徴があるという考え方は、受形という概念が操作概念としてあまりに漠然としており、また積極的な定義概念ではなく、現象の結果的効果の記述に過ぎない。この点に関しては、諸言語のシステムとの比較も行ないながら研究を行なった。 日本語の「e,(ra)reru」という語尾も、フランス語の再帰構文のように可能および自発、受動の意味を表わす。ただし、日本語研究においては自動詞のあるグループを自発態と呼ぶことが慣例化しており、ここではそれを含んだ構文を対象としている。日本語については、特に自発態と受動可能表現(中間態)に関して時制との共起関係および、「(人)に、には、にも」といった、一見、動作主または経験主を表わしているように見える、「に」格が実は程度を表わす副詞表現であるといった問題、曖昧な事例の代表として「売れる」という動詞が示す様々な問題などに焦点を絞って、フランス語との対照的な観点から研究を行なった。
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