19世紀以後に成立した近代的な文学史や思想史の枠組みに収まりきらない18世紀紀固有の生活態と知の構図を把握する必要性を痛感し、『百科全書』の「人間知識の系統図」が表している分類思想を導きの糸とすることで、諸領域を横断するこの時代の複雑なテーマ系を解明しうるという確信をえるに及び、啓蒙時代に関する大規模な総合研究の端緒を提示した。 18世紀フランスでディドロとダランベールが刊行した『百科全書』第1巻の冒頭に付された「人間知識の系統図」が紡ぎ出すテーマ系のうちで、「理性」の2つの機能である「批判的侵犯」と「異界踏査」をテーマとして、同時代資料(古版本や図鑑のオリジナル、マイクロ資料)に当たり、文字と図版の両側面からマルチ・メディアの方法も活用しつつ多角的な調査によってこの時代の複雑な様相を文化史的な観点から浮き彫りにするのが、本研究の眼目である。テーマ系の概要は以下の通りである。 序:水車をめぐる物語 I: 整備される世界(プルジョワジーの台頭、網羅と分類、知識の分類) II: 日常への侵犯(理性のメス、都市生活の理想化、私的空間の設営、人間・家庭・社会の裏面) III: 秘境の発見と異界の踏査(空へ・山へ、異国への憧憬、博物学の時代、奇形学への関心、ユートピア) 以上の観念は、現代人の「知」の枠組みの中では容易に共存しえないものであるが、百科全書的連鎖の配置によって見事な整合性を獲得する。
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