1.日本人教員と外国人教員が初めから統一プログラムで受け持ったクラス(以下「実験クラス」と略す)と一般クラス(初めに日本人教員が文法を集中的に教授したあとで外国人が担当する)の学生それぞれの4技能の展開を比較すると、(1)まず「聞く」力に関しては実験クラスの方が大きな伸びを示す。それは日本人教員もドイツ語を用いていることの他、学習者の心理的負担が小さいことにも起因する。彼らは何もわからない状態からいきなり未知の言語を聞かされるため却って既知の語句を待ったり教授者の身ぶりを見たりする「ゆとり」がある。逆に一般クラスでは「マスターしたはず」の文法知識に頼ろうとする傾向が強く、それがたちまち失望感を生むケースが見られる。(2)この傾向は「話す」場合さらに顕著になる。実験クラスでは重要な情報をなんとか伝える姿勢が次第に形成されるが、一般クラスでは内容の伝達よりも文法的に正確な表現をすることに大きな比重を置く傾向が根強い。これは重要なことではあるが、口頭コミュニケーションの際はそれが却って障害となる事例が少なくない。(3)「読む」能力の展開については比較データの処理を来年度に終える予定である。(4)初習外国語の授業では従来あまり重要視されなかった「書く」力で両クラスの差が歴然としているのは新しい知見といえる。同じ条件で作文の試験を行った際、実験クラスの学習者が一般クラスに比べて平均で2倍以上の語を用い、しかも文法的により正確でありかつ分相互の結束性も高いことが明らかとなった。(以上の点についてはハイケ・パペンティン氏らの協力を得た。)2.教授対象の言語を用いて授業をすることに抵抗感を覚える日本人教員はまだ少なくないと思われるが、以上の知見だけでも「文法訳読方式」が時代の要請にそぐわないことは明らかである。3.今回の科学研究費の助成を受けずに今年度発表したドイツ語教授法関係の著書1冊、論文5篇をもさらに発展させる形で来年度に報告書をまとめる予定である。
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